X (エックス)/ Jealousy(ジェラシー)

アルバムレビュー
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こんな人におすすめ

  • 『ヘドバン』Vol.30を購入された人、購入してない人も
  • XとかV系ってなんかなよなよしてない?って人
  • 言ってもXってYOSHIKIとその他でしょ?って人
  • X JAPANの代表曲は「紅」と「X」でしょ?って人

概要

91年発表のメジャー2作目、通算3作目のアルバム。

YOSHIKI(Drums)の椎間板ヘルニア発症、TOSHI(Vocal)のドクターストップによる2週間の発声禁止等、幾多の困難を乗り越えて完成された。上記の理由等で制作は大幅に遅れ、本来なら収録される予定だった30分を越える大曲「Art Of Life」、「Standing Sex」「Sadistic Desire」を含む2枚組でのリリースを断念。全10曲、1枚のみでのリリースとなった。

メンバー

YOSHIKI / Drums&Piano

TOSHI / Vocal

HIDE / Guitar

PATA / Guitar

TAIJI / Bass

収録曲

M-1「Es Durのピアノ線」

M-2「Silent Jealousy」

M-3「Miscast」

M-4「Desperate Angel」

M-5「White Wind From Mr.Martin ~PATA’sNap」

M-6「Voiceless Screaming」

M-7「Stab Me In The Back」

M-8「Love Replica」

M-9「Joker」

M-10「Say Anything」

レビュー

 X(X JAPAN)のアルバムとしての最高傑作は「BLUE BLOOD」という評価の方が一般的であることは百も承知である。ただし、本作「Jealousy」こそが、Xが『バンド』として5人のメンバー全員が肉体的にも精神的にも、まさにギリギリのバランスを保った状態で生み出した「BLUE BLOOD」とは違った意味での奇跡の一枚であると思う。

今回はそんな「Jealousy」の魅力に迫っていきたいと思う。

 まずXの中心は、リーダーでありメインコンポーザーのYOSHIKIである事に間違いはない。クラシックとHR/HMの融合。一口に言えば簡単だし、同様のアプローチをしているバンドは他にも沢山ある。しかし、「YOSHIKI Classic」のように完全なるオーケストラアレンジを施しても、曲のイメージが広がりこそすれど破綻しないのはYOSHIKIの織りなすメロディへの圧倒的なこだわりがXの曲にはあるからである。

 TOSHIの声は、それそのものがXのアイデンティティの一つであり、YOSHIKIのメロディはTOSHIという声を通して具現化される事で始めて完成を見るのだと思う。

 それはTOSHIなしでYOSHIKIが世に出した、いや出そうとしたViolet UKとS.K.I.N.そしてX JAPAN名義になるはずがYOSHIKIとTOSHIの再度の確執(?)で、おそらくYOSHIKIの本来の意図とは違う形で世に出すこととなった「RED SWAN」で図らずとも証明されてしまっているのではないだろうか。いや、寧ろYOSHIKIのメロディをTOSHIの声で具現化してるのではなく、YOSHIKIの頭の中で生まれたメロディが、その時点でTOSHIの声を前提に生まれてしまっている為、TOSHIの声以外で具現化しても本来のメロディの魅力を十分に引き出せないのかもしれない。

 さて、そんなYOSHIKI中心のXが、意図的にYOSHIKI以外のメンバーの作詞・作曲を取り入れた作品が「Jealousy」である。HIDEによるM-3、M-8、M-9。TAIJIによるM-4、M-6、PATAによるM-5と全10曲中、なんと過半数がYOSHIKI以外のメンバーによる作詞・作曲である。そしてこれは発表当時、G’N RやMötley Crüe、SKID ROW等が牽引していたL.A.のHR/HMシーンの影響もあったのだろうが、レザーとバイク、ウイスキーといったイメージがアルバムジャケットやステージ衣装にも現れ、Xの作品の中でも非常にハード且つワイルドな印象をアルバムに与えている。

 そしてYOSHIKI以外のメンバーによる曲がまた良い。

 HIDEによるM-3「Miscast」は王道HRチューン。歌詞の「真綿で締めつけるのさ お前を」「手遅れなのさ 選ばれたMiscast」のように、8分音符の歌メロにHIDEの言うところの「ガキガキした日本語」が乗ることで、英詞とは違う鉈包丁で刻むような歯切れの良い縦ノリ曲だ。M-8「Love Replica」はHIDEが“Jealousy”から連想した“ナルシスト”というワードをモチーフに作られている。ライブでのHIDEのソロコーナー“HIDEの部屋”を彷彿とさせる打ち込みたっぷりの実験的な曲。M-9「Joker」はXによるRock ‘n’ roll パーティーソング。同じくHIDE作詞・作曲による「BLUE BLOOD」収録の「Celebration」と並んでXの“陽”を前面に出した“ノリ一発”な曲だ。

 PATA作のM-5「White Wind From Mr.Martin ~PATA’sNap」は、続くM-6のイントロとして急遽レコーディングされた異色のアコースティックナンバー。93年に発表される事となったPATAの1stソロアルバム「PATA」への繋がりを感じさせるブルージーなアコースティックプレイが楽しめる。タイトルの“Nap”は日本語で“昼寝”を意味し、どこかのほほん、飄々としたPATAの人柄も感じさせる。序盤畳みかけるようなファストチューンが続いてきた中で一息つける曲。

 TAIJIとTOSHIのコンビによるM-4「Desperate Angel」、M-6「Voiceless Screaming」の2曲は、これまでのXにはない姿をリスナーに提示している。M-4「Desperate Angel」はユーチューバー的にいえば『Xが L.A.メタルをやってみたー!!』ってところだろうか。実はメンバー随一の技巧派であるTAIJIらしく、曲展開はなかなか複雑で、メロディーはYOSHIKI曲とは違う明るさやキャッチーさがある。歌詞はTOSHIによる全編英詞なのだが、自分で歌うのによくもまあこれ程言葉を詰め込んだとある意味感心させられる程早口である。ネイティブならメロディーの譜割りに対してこの歌詞はつけまい。Xと言えばレコーディングに対してYOSHIKIが妥協を一切許さず、途方もない時間がかかる事はXを熱心に聴いていない人でも小耳に挟んだことがあるかもしれない。ただ、これはあくまで筆者の想像だが、この「Desperate Angel」は左程テイクは重ねられてないのではないだろうか。TOSHIのVocalを始め非常にのびのびと気持ちよく演奏しているように聴こえる。Xの中では忘れられがちだが好きな人にはメチャクチャ刺さるであろう佳曲。そしてM-6「Voiceless Screaming」。アルバムの丁度真ん中に位置するこのアコースティックバラード。TOSHIのVocalと並び、Xを象徴する要素のひとつとなっているのがHIDE&PATAによるツインギターだ。しかし、この「Voiceless Screaming」には彼らのギターテイクは収められていない。もしTAIJIがもう少し長くXに在籍して、TOSHI/TAIJIによる他の曲が生まれていたら?今となっては非常に残念である。

尚、「Voiceless Screaming」は過去記事もご覧ください。

過去記事 楽曲レビュー X / Voiceless Screaming

 Xはどうしても大将YOSHIKIが絶対と思われがちだし、あながち間違いでもない。しかし「Jealousy」に関しては、メンバーが各々思い通りにやれた部分があり、最も『バンドらしい』作品になっていると思うのだ。

 それでは「Jealousy」ではYOSHIKIの存在感が薄いのか?いやいや、そんな訳はない。YOSHIKIは本作でM-1、M-2、M-7、M-10の4曲を書いているが、M-1「Es Durのピアノ線」は当時ジャーマンメタルなどではよくある手法だったアルバムオープニングを飾るクラシカルなイントロダクション。終盤YOSHIKIお得意のピアノ不協和音によって緊張感を高めつつ、M-2「Silent Jealousy」へ続く。イントロからアウトロまでまさに寸分の隙も無い控えめに言って神曲。この曲をXの最高傑作と推すファンは多く、筆者もまたその一人である。

X JAPAN 『Silent Jealousy』(HD)

尚、「Silent Jealousy」も過去記事にてレビューしています。

過去記事 楽曲レビュー X / Silent Jealousy

M-7「Stab Me In The Back」はBPM=200というX最速曲。YOSHIKIをして「身体がかわいかったら、ドラマーの人は(コピーするのを)やめたほうがいい」と言わしめる曲。実際YOSHIKIはこの曲のレコーディング2日後に人生最大の痛みを発症し、

 そして、M-10「Say Anything」。「ENDLESS RAIN」や「Forever Love」の陰に隠れがちだが、実に美しい珠玉のバラード。作曲者のYOSHIKI本人は「ENDLESS RAIN」を超えられなかった失敗作としているが、アルバムからのシングルカットという当時日本では少ない形態のリリースにも関わらず、59万枚というX名義におけるシングル最高のセールスを記録している。王道バラードらしくサビで大きな盛り上がりをみせるが、特に大サビのTOSHIの連続高音パートは必聴。ライブではTAIJI脱退後、S.E.として使用されるのがほとんどになってしまったあのが非常に残念である。

このようにXの「Jealousy」はメンバー全員が演奏だけではなく制作にも大いに力を発揮した最もバンドらしい作品と言える。その後、YOSHIKIの一切の妥協を許さない姿勢と拘りによってバンドは『破滅へ向かって』いくのだが、本作はその直前、Xのバンドとしての演奏力、フィジカル、精神力、人間関係的にも色んなものがピークを迎え、爆発する直前の赤色巨星のような大いなるエネルギーを封じ込めた作品である。

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